



安比派 詩集 ヒロトク詩集
丹青老人詩集 下川ヒロトク
下川ひろとく 下川 博徳
安比アートギャラリー 安比高原
みちのく詩文
時は冬に始まり
みちのくの千年は
城柵と伝説の石の上に
夏草を咲かせて
滔滔たる物語りを織り込んで往く
その昔、
アラハバキの村は
祇園精舎の都となり
僧侶献じる梵鐘の音は
光り堂に降る雨となる
日ノ本中央と刻まれた
田村麻呂の石は
畑の土からその姿を現し
ヘライの丘に乳房の如く
キリストの十字架は横たわる
古より
十三湖の水益々清く、
黙して何も語らず
安藤一族の黄金は
今も砂の中に眠る
現世における
最良の金鉱を隠し持つ
恐れの山は聖地とされ
西方からの権力と欲望を遠ざけてきた
金売り吉次が
牛を引いた道は土砂で隠され
芭蕉の忘れた杖は
未だに立て掛けたままにある
賢者が憧れ旅をして
賢者が日々隠遁する森
そこには、アマツクリの国の、
もう一つの神秘があった
岩鷲山に向いて
啄木は繊細な詩を忘れ
光太郎は独り
花巻の地でチエコの影を削る
賢治は今も
下の畑で土を耕し
銀河鉄道は静夜、童を乗せて
天界を天駆ける
北の停車場は千年の都、
伝説の国、至人の里
時は芳春を迎えて
みちのくの千年は
もう一つの神話の
扉を開こうとしている